労働事件の基礎知識
残業代を請求するには
会社勤めなどをしていて,残業代が支払われていないということはありませんか。未払の残業代を請求する場合の計算方法などをご紹介します。
1.計算方法
- 残業時間数を確認
- 残業代の計算方法
まずは,残業時間数がどれくらいあるのかを確認する必要があります。 一般的には,一日8時間を超える労働部分は割増賃金の請求をすることができる残業となります。ただ,会社によっては,フレックスタイム制,変形労働時間制などの弾力的な労働時間制度を採用していることがあります。この場合には,残業時間数の計算方法が異なりますので,お近くの弁護士にご相談ください。
- 1)基本となる賃金
基本となる1時間当たりの賃金(基礎賃金)を,以下の計算式で計算します。 (基本給と諸手当)÷ 一ヶ月の所定労働時間 諸手当は,会社により様々な名称がありますが,家族手当・通勤手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金などは含まれないものもありますので注意が必要です。
- 2)割増
1時間当たりの賃金(基礎賃金)に以下の割増率を乗じたものが,1時間当たりの残業代等となります。
- ア:時間外労働(法定労働時間を超えた場合) 25%割増
- イ:時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合) 50%割増
※ただし,中小企業に対する適用猶予があるほか,代替休暇取得の場合は25%の割増がない場合などの例外があります。
- ウ:深夜労働
(午後10時から午前5時までに労働した場合) 25%割増
- エ:休日労働(法定休日に労働した場合) 35%割増
- オ:時間外労働(法定労働時間を超えた場合)+深夜労働 50%割増
- カ:時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合)+深夜労働 75%割増
- キ:休日労働+深夜労働 60%割増
2.管理監督者
通常,従業員が残業をした場合は,会社は残業代を支払う必要があります。一方で,管理監督者に対しては,残業代などの割増賃金を支払う必要がありません。 そのため,残業をした従業員が管理監督者に当たるかどうかが問題となるケースがあります。 管理監督者に当たるかどうかは,各部署・部門を統括する立場にあるか,企業の経営に関与しているか,労働時間・休憩・休日の制限を受けるか,賃金面で十分な待遇がされているか等の点を総合的に考慮して判断されます。 そのため,会社では管理職として取り扱われているが,法律上の管理監督者に当たらないという場合もあります。
3.時効は2年
残業代請求の時効は2年間です。未払い残業代がある方は,お早めに弁護士にご相談ください。
4.証拠集めが重要
残業代請求では,特に,証拠集めが重要です。タイムカード,就業規則,賃金規定といった証拠をどれだけ多く集められるかが,残業代請求が認められるか否かのカギとなってきます。タイムカードがないという場合でも,自分でメモを取るなどして,実際に働いていた時間が明らかになるようにすることが重要です。
不当解雇を争うには
不当解雇
解雇には,整理解雇(いわゆるリストラ)と,能力・勤務態度等を理由とする普通解雇,職務怠慢・職場規律違反などに対する懲戒解雇があります。正当な理由に基づく解雇であれば,会社側の権利として認められますが,一方で,正当な理由のない解雇は,「解雇権の濫用」として不当解雇になります。 解雇の種類を整理するとともに,不当な解雇を受けた場合の対処方法についてご紹介します。
1.解雇の種類
- 整理解雇(リストラ)
- 普通解雇
- 懲戒解雇
会社(使用者)側の経済的事情などにより生じた従業員削減の必要性から,労働者を解雇する場合です。整理解雇が解雇権の濫用に当たる場合には,その解雇は無効となります。 整理解雇が解雇権の濫用に当たるかどうかは,A:人員削減の必要性があるか,B:解雇回避努力が尽くされているか,C:人選基準とその適用が合理的か,D:労働組合もしくは被雇用者と十分な協議がされたかを考慮して判断されます。 例えば,会社が経済的に追い詰められているようには見えない,自分は解雇されたのに会社は求人を出しているというような場合には,①人員削減の必要性がなく,不当解雇の可能性があります。また,勤務態度等を理由に解雇された場合には,恣意的な判断となっている場合もあるため,③合理的な判断基準でないとして不当解雇と判断される可能性があります。
普通解雇では,傷病により就労できない場合や,成績不良,協調性の欠如といった事由が解雇原因となります。普通解雇の方が懲戒解雇よりも懲戒事由が広く,普通解雇事由は懲戒解雇事由を含む関係となります。 普通解雇では,A:解雇予告手当の支払か,B:30日前の解雇予告が原則として必要になります。
懲戒解雇は,職務怠慢や業務命令に違反した場合,職場の規律に違反した場合などに,懲戒処分として行われる解雇です。懲戒解雇の場合は,解雇予告もなく即時に解雇されたり,退職金が支払われなくなったりします。 懲戒解雇が有効になされるためには,まず,就業規則上にそのような規定があることが必要です。懲戒解雇になった理由が就業規則上で懲戒理由として定められているかを確認しましょう。なお,就業規則は周知されている必要がありますので,就業規則を見せてほしいと伝えても見せてもらえなかった場合には,規則自体が無効となる場合があります。 また,就業規則で定める手続きを経て懲戒解雇とする必要があります。例えば,就業規則上,懲戒解雇とするためには本人に弁明の機会を与えることとされているのに,それを与えないで懲戒解雇とした場合には,解雇無効となる可能性があります。
2.不当解雇を受けた場合
- 請求する内容
- 請求方法
- 1.不当解雇を撤回してもらって会社に戻る
不当解雇を撤回してもらえば,再び会社に戻ることも可能です。会社に戻りたいという強い希望がある場合には,不当解雇を撤回してもらって,会社に戻れるように請求しましょう。
- 2.不当解雇を受けた後にも発生し続けていた賃金を請求する
不当解雇を受けていた場合の解決として最も多いのが,本来もらえるはずであった賃金を請求して,お金で解決する場合です。解雇を撤回してもらっても,会社に戻りづらいと考える場合には,有効な手段です。
大きく分けて①会社側と交渉する方法と,②法的手段を使って解決する方法の2つがあります。法的手段としては,訴訟や労働審判などがあります。
退職金の請求をするには
会社を退職する場合,退職金が支払われないなどのトラブルが生じる場合があります。以下では,退職金の請求に関してご紹介します。
- 退職金に関する規定の有無が大切
- 慣習があれば請求できる場合も!?
- 退職金請求のご相談
退職金を請求したい場合,まずは,勤めていた会社に退職金に関する規定があるかを確認してください。 退職金は,残業代や休日手当とは異なり,労働契約があれば当然支払われるという性質ではありません。また,退職金規程を設けるかどうかは会社の裁量にゆだねられているので,必ずしも退職金規程があるとは限りません。 就業規則・賃金規定・退職金規定などに,退職金支払いの根拠となる条項がない限りは,原則として,退職金の支払いを受けることはできません。 退職金に関して規定があり,支給条件等も明確に決まっている場合には,退職金を減額・不支給とする条項に抵触しない限りは,会社は退職金を支払わなければなりません
退職金規定等は定められていないものの,実際には退職金が支給されており,退職すれば退職金が支払われるという慣習がある場合があります。 この場合,退職金について取り決めた文書等がなくても,慣行に従った退職金の支払いをするという黙示の合意があったと認められ,労働契約の内容になっているとして請求できることがあります。 もっとも,懲戒解雇等,退職金制度を定める会社でも通常退職金を不支給とするような事情がある場合には,退職金の支払いを受けることができないこともあります。
退職金規程が定められている場合でも,その規定が複雑で,退職金をいくら支払われるべきなのかわかりにくい場合もあります。その場合には,弁護士にご相談ください。